2024年度
教員名
専門領域・卒論指導可能分野
都市下層社会史、地域史、民衆史、古文書学
演習題目
ゼミ紹介
ポーターゼミでは、「近世都市の身分的周縁」というテーマのもと、身分論の観点より近世都市社会の構造的特質を解析していく。具体的には、織豊期からの展開をふまえて、近世身分社会の成立過程・歴史的展開を考察する。そのさい、近世の「三都」=江戸、大坂、京都を具体例として取り上げ、近世都市の支配体系と分節的社会=空間構造を総合的に把握していく。近世社会は身分を編成原理とする前近代社会の一形態である。原則として、身分は集団という形で存在し、都市住民は集団の付属物として位置付けられた。つまり、近世段階では、自立的な個人は未成立であり、所有や生産などは集団の内部秩序によって媒介・保全された。近世の社会体制のもとで、公認された身分集団はそれぞれ個別の公役を負担し、その見返りとしてそれぞれに異なる集団的特権を与えられた。一方、未公認の社会集団も数多く存在し、狭義の身分制の外側(周縁)に存在しながら、近世社会の構造実態を強く規定した。それゆえ、身分社会の全体構造を総括的に把握しようとするときに、百姓や職人などの基幹的な身分だけでなく、近世身分制の公式枠組みに収まり切らないような身分集団、すなわち近世社会の基本的な生産関係や所有関係などから疎外された周縁的な要素も視野に入れなければならない。今期では、こうした周縁的な要素に注目しながら、近世都市社会の全貌を把握していく。 *授業の概要* 1980年代から本格化した日本近世都市史研究の第三波に学びながら、都市構造の実態を分析していく。具体的には、都市住民によって形成された個性的な諸集団に注目しつつ、都市を解剖し、都市社会を構成する諸要素を個別具体的に把握し、さらに都市の全体構造におけるそうした要素の位置付けを解明していく。そのさい、近世都市の基本的な社会集団である「町」(=ここでの町は単なる住居表示のための空間分割ではなく、小資本存在である家持町人の身分共同体のこと)、および「町」の存在形態を規定した地域社会構造が考察対象にする。あたかもパズルを解くように、都市全体の存立を複層的に担保した小社会のありようを一つ一つ明らかにし、近世都市社会の全貌を把握する。 *方法論について* 近世都市の社会=空間構造を分析するさい、①都市住民の生活世界や彼らの生命と世代的再生産を担保した社会的紐帯を具体的に解明すること、②巨大都市全体の分節構造を構成するミクロ社会の固有性・普遍性を統一的に把握すること、③一次史料や地図の検討など、さまざまな史料を多面的に活用し分析すること、などを重視したい。具体的なケーススタディーとして、町共同体、公認遊郭、木賃宿街、勧進者の共同組織などを取り上げる。授業全体を通して、地域社会の構造とその変容を動態的に捉える方法を考察し、現代都市社会が抱える諸問題に向き合うための基本的な視座の獲得を目指す。
卒論・卒業研究について
卒論ゼミの課題は、卒業論文を執筆することです。具体的には、実証的な研究手法を用いながら、独自にテーマを設定し、史料と文献を収集・解読するとともに、学問的な論文を書く。論文の執筆に当たって、次の四点について答えを求める。第一に、論文のテーマは明確か、論文で取り上げる課題と答えを具体的、かつ実証的につかんでいるか。第二に、信憑性のある一次史料や参考文献を利用しているか。第三に、先行研究を十分に踏まえているか、自分の研究と既存の研究蓄積との関係をきちんと示しているか。論点は十分、かつ正確に引き出され、検証されているか。
受講上の注意など
*アプローチ* 本授業においては、研究上のアプローチを持ち込みたいと考えている。具体的には、学術論文だけから歴史像を構築するのではなく、一次史料も最大限に利用することである。この授業を受ける学生は、専門家の解釈に頼って近世社会史の通説を学ぶのではなく、自ら行う古文書解析を通じて社会の具体像を把握することができる。このような教育方式を実現するためには、学生に史料の読解力を身につけさせる必要がある。それゆえ、毎時に訓練の時間を設けて、都市住民によって残された古文書を読み合わせていく。そうすることによって、学生に近世都市の身分的周縁に関わる基礎知識を与えるとともに、自分でオリジナルかつ実証的な研究を行えるような史料解析能力を身につけさせることができると考えている。
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